香港税務 - 属地主義課税原則のご紹介
香港は属地主義の課税原則を採用しており、つまり香港源泉所得のみが香港で課税される必要があり、その他地域からの所得に対して香港で利得税を納付する必要がありません。この原則自体は非常に明確ですが、実際の応用では、論争を引き起こす場合があります。本稿の後半でこの原則を運用する方法を簡単に説明し、且つ簡単な例を挙げて異なる業務で当該原則を実施する際に採用する検証基準を説明します。
Ø事業所得に対する香港の課税基準
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Ø 取引から得られるコミッション
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Ø利得税の課税対象となる先決条件
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Ø その他の所得の取り扱い
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Ø所得源泉地を確定する基本原則
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Ø 所得と費用の割当計算
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Ø貿易会社の所得
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Ø 事前裁定
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Ø製造業の所得
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事業所得に対する香港の課税基準
香港は属地主義の原則を採用しており、香港で業種、職業又は業務を営むことにより得られた所得に対して税金を課しています。香港で発生した、または香港から得られた利益のみが利得税の課税対象となります。要するに、香港でビジネスをしていますが、その所得は香港以外の地区から得た場合、香港において関係する所得に対して税金を支払う必要がありません。
世界には様々な課税基準を採用している国家がたくさんあって、香港が採用している属地主義の原則とは異なります。これらの地域は、当地で事業を行って世界中から得られる所得(海外による所得を含む)に対し税金を課しています。
利得税の課税対象となる先決条件
「税務条例」によると、以下の条件を満たす人は香港の利得税を納める必要があります。
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香港で業種、職業又は業務を営むこと;
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当該業界、職業又は業務から所得を得ること;且つ
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関連所得が香港で発生するか、あるいは香港から得られること。
1番目と2番目の条件は簡単かつ明確ですが、3番目の条件は説明する必要があります。次には、所得の源泉地を確定する基本原則を検討しましょう。
所得源泉地を確定する基本原則
長年にわたり、裁判所は所得源泉地の確定に関する問題について裁定を下しています。以下の各項の原則は、裁判所の最も権威のある判決に基づいて確立されています。
事実問題
所得の源泉地を確定することは、関連する事件の事実に基づいて決定しなければならないので、あらゆる状況に適用される一般的な規則はありません。所得が香港で発生するか、または香港から得られるかは、所得の性質及び関連所得を生み出した取引の性質によって決められます。
作業の検証方法
所得源泉地を確定するための概括的指導原則は、納税者が従事する所得を得るための活動、及び当該納税者がその活動に従事する場所を明らかにすることです。言い換えれば、正しい方法は、関連する所得を生み出す操作を明らかにし、かつこれらの操作が実行される場所を確定することです。所得の源泉は、グループのその他のメンバーによる操作ではなく、納税者による所得を生み出す活動に起因しなければなりません。
以前または副次的な活動
関連する操作は、納税者がその業務の過程で行うすべての活動を含むわけではありません。ポイントは、納税者が所得を得た地理的位置を確定し、これらの取引を以前・副次的な活動と区別して検討することです。
意思決定を行う地点
日常の投資や業務の意思決定を行う地点は、所得源泉地を確定する際に考慮しなければならない要素の1つに過ぎず、一般的には決定的な要素ではありません。
取引による粗利益
取引の利益が香港または香港以外の地区から得られたかは、当該取引から生み出された粗利益によって決められます。
海外事務所
事業体は海外に事務所を置いて、香港外で利益を得る可能性があります。しかし、事業体が海外事務所を設立していないことは、そのすべての利益が香港で生み出され、または香港から得られたわけではありません。ただし、ほとんどの場合、事業体の主たる営業所が香港にあり、かつ当該事業体が海外事務所を設立していない場合、その稼いだ利益は香港で利得税の課税対象となる可能性が高いです。
貿易会社の所得
売買契約
貨物や商品の取引による所得の源泉地を確定するとき、一般的には売買契約を達成する場所を根拠とします。「達成」という用語は、法律上の署名だけでなく、契約の交渉や確定、及び契約条項の履行という意味も含みます。
Magna工業有限会社VS税務局長の案件について控訴裁判所が下した判決から見ると、所得源泉地を確定する際に十分な考慮が必要であることは明確に理解できました。正しい方法は、商品の売買だけを考慮するのではなく、利益を得るために行われるあらゆる関連操作を検討することです。
Magna工業有限会社VS税務局長の案件では、控訴裁判所は特に次の内容に言及しました。
「商品がどこで売買されるかは明らかに重要な問題ですが、他に考慮する必要のある問題もあります。例えば、商品はどのように購入・保管されているのか。関連する販売はどのように誘致されているのか。注文はどのように処理されているのか。商品はどのように出荷されているのか。資金調達はどのように手配されているのか。どのように支払われているのか。」
関連事実はどのように考慮するのか
関連する事実を考慮するとき、関連する商業活動の性質及び特徴は、当該活動に従事する頻度よりも重要です。これらの活動と関連する所得との因果関係が決定的な要因です。
重要でない事実
商業活動の所得源泉地を確立する際には、当該商業活動に直接関係のない事実(例:賃貸オフィス、一般職員の募集、事務所の開設など)は、すべて重要でないとみなされます。
一般原則
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関連する売買契約が香港で達成された場合、所得に対して香港で税金を支払う必要があります。
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関連する売買契約が香港以外の地区で達成された場合、所得に対して香港で税金を支払う必要がありません。
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購入契約又は売却契約のいずれかが香港で達成された場合、初歩的な仮定は、所得の全額に対して香港で税金を支払う必要があることですが、所得の源泉地を確定するためにその他の関連する事実も考慮する必要があります。
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香港の顧客(海外バイヤーの香港における仕入事務所を含む)に販売された場合、関連する売買契約は通常、香港で達成されたとみなされます。
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関係者は香港を離れる必要がないが、香港において電話又はインターネットなどのその他のデジタルメディアを通じて、売買契約を達成した場合、関連する契約は香港で達成されたとみなされます。
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貿易による所得は、全額に対して香港で課税されるか、あるいはまったく課税されません。所得の割当計算は適用されません。
製造業の所得
商品を製造する地点
製造業の所得の源泉地とは、商品を製造する地点です。香港で製造された商品の販売による所得は、すべて香港で課税されなければなりません。商品の製造工程の一部が香港で行われ、一部が香港外で行われる場合、香港外での製造工程に関連する所得は、香港で発生した所得とはみなされません。完成品の販売場所は重要ではありません。
商品製造に関して中国大陸の事業体との委託加工・組立契約
香港企業の中国大陸における加工貿易は一般的に、来料加工と進料加工の2種類に分けられます。
来料加工
来料加工では、当事者間の契約関係を管轄する文書が委託加工契約です。委託加工契約は、香港企業と中国大陸の生産企業の権利と義務を定めています。香港企業は、原材料と機械を無償支給し、かつ技術及び管理知識を提供します。中国大陸の生産企業は、工場、水道・電気設備及び労働力を提供します。香港企業は、中国大陸の生産企業に加工サービスの報酬としての加工費を支払います。原材料及び完成品の法定所有権は、依然として香港企業に帰属します。
厳密に言えば、関連する中国大陸の生産企業は香港企業と区別され、独立した下請け業者です。従って、香港企業が商品の販売から得た所得については、割り当て計算する必要があるかどうかについての問題はないはずですが、税務局は、香港企業の中国大陸での業務操作がその香港での業務操作を補足していると考えています。香港企業の中国大陸での業務操作を認めるために、税務局は一般的に、関連する香港企業が50:50の比率で利益を割り当てることを許可します。
進料加工
進料加工では、生産作業は、中国大陸で設立され且つ香港企業に関連する外商投資企業(外資系企業)によって行われます。香港企業は外資系企業に原材料を販売してから、外資系企業から完成品を買い戻します。香港企業は原材料及び完成品の貿易に従事し、外資系企業は完成品を製造します。原材料及び完成品の法定所有権はぞれぞれ、香港企業から外資系企業に、外資系企業から香港企業に譲渡されます。
税務局は、香港での「売買取引」から香港企業が得た所得は、中国大陸で事業を行っている外資系企業の生産作業に起因することはできないと考えています。貿易による所得の源泉は、貿易利益を生み出す香港企業の作業に起因しなければなりません。その所得の全額は利得税の課税対象となり、割り当ててはなりません。
生産作業が中国大陸の独立した下請け業者によって請け負われる
香港企業が中国大陸の異なる請負業者に組立作業を委託しており、その中には平価かつ短期の請負プロジェクトがたくさん含まれ、かつ香港企業の組立作業への参加度がとても低い場合、中国大陸での組立作業は香港企業によって行われるとはみなされません。香港企業は香港以外の地区でいかなる生産作業も行っていないため、その所得が全額で利得税を課され、割り当ててはなりません。
売買取引から得られたコミッション
サービス提供の地点
事業体は、顧客の製品のためにバイヤーを探し、あるいは顧客に必要な製品の供給者を探すことによってコミッションを獲得し、委託者に商取引を行うように手配することは、当該コミッションを生み出す関連活動です。関連活動が行われる地点が当該所得の源泉地です。このような活動は香港で行われる場合、当該コミッションの源泉地が香港です。
委託者の所在地、エージェントがどのように委託者を探すのか、およびコミッションが獲得される前後の関連活動はどこで行われるのかなどの問題は通常、コミッション収入の源泉地に関係ありません。
香港で事業を営む者はコミッション収入を得ましたが、コミッションを生み出す活動がすべて香港外で行われる場合、当該コミッションは香港で課税されません。
その他の所得の取り扱い
その他の主要な営業利益については、以下の検証基準に基づいて源泉地を確定することができます。
所得
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香港で課税されるか
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不動産による家賃収入
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関連物件は香港にある場合、家賃収入に対して香港で税金を支払わなければならない
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所有者が不動産の売却から得た所得
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関連物件は香港にある場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
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上場株式及びその他の上場証券の売買による所得
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関連する株式または証券が香港証券取引所で取引された場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
取引所外取引について、売買契約が香港で達成された場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
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事業体(財務機構を除く)が非上場株式及びその他の非上場証券の売買から得た所得
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関連売買契約が香港で達成された場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
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サービス報酬収入
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当該報酬を得たサービスは香港で提供される場合、得たサービス料に対して香港で税金を支払わなければならない
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事業体が取得した特許使用料
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香港で取得・付与された許可・使用権の場合、取得した特許使用料に対して香港で税金を支払わなければならない
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香港に居住していない者が知的財産権の使用に対して香港から得た特許使用料
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関連する知的財産権が香港で使用される場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
2004年6月25日以降に特許使用料を取得し、関連する知的財産権が香港外で使用され、当該金額はある人が利得税の課税所得を計算する際に控除可能である場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
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事業体(財務機構を除く)の利息収入
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貸し手は香港で借り手にお金を貸す場合、得た所得に対して香港で税金を支払わなければならない
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所得と費用の割当計算
香港内及び香港外で行われた主要活動の業務から得た製造業所得またはサービス料収入は、割り当てて計算することができます。来料加工の場合、加工作業の当事者が従わなければならない条件に基づき、50:50の比率で課税所得を割り当てることは一貫したやり方です。その他のケースでは、割り当てが適切である場合、割り当ての比率はケースバイケースです。
割当計算を採用すると、間接費をどのように配分するかという問題は生じる可能性があります。要するに、これらの費用は香港内及び香港外で利益を得るために同時に使われる場合は、香港内及び香港外からの所得が所得総額にそれぞれ占める割合に基づいて割り当てて計算する必要があります。
事前裁定
所得が香港で発生するか、または香港から得られたかを明確に判断するために、税務局は営業利益の源泉地について事前裁定サービスを提供しています。このサービスのご利用は料金がかかります。詳細は、「税務条例釈義及び執行ガイドライン第31号」(「事前裁定」)に載っています。
データソース: 香港税務局ウェブサイト
- https://www.ird.gov.hk/chs/paf/bus_pft_tsp.htm